先輩カメラマンの影
個人撮影をしたいと思うカメラマンは多いと思うが、どんな高価な機材を揃えるよりも、重要で難しい問題はいいモデルを得ることである。1万円以下の50mmレンズ一本でもモデルがよければいいポートレートは撮れるが、50万円のサンニッパを持ってしても被写体がイマイチだと、いいポートレートが撮れるとは限らない。レンズの描写に酔う写真が出来上がるかもしれないが、満足度ととしてはかなり物足りなくなってしまうものである。
さて、モデルを探すにあたって色々な方法があるわけだが、まずは身近にいる女性にお願いすること。彼女であったり周りの女友達、家族などがそれにあたるが、頼みやすいことは事実だが、実際に実行している人は少数派であろう。
確かに、彼女とは好きで付き合っているのであるから、多かれ少なかれ自分の好みの女性であることは間違いないとは思うが、誰もがフォトジェニックな彼女をモノにしているとはお世辞にも言いがたいのが現状のようである。
そうなると、目を外に向けなければならなくなるが、写真も永くやっているとネットワークが完成してきて、自然にモデルに巡り合うこともあったりするが、それが望めないアマチュアカメラマンが大多数であることは、貴方たちが一番知っていることではないだろうか。
手っ取り早く、街に出て好みの美人を探す方法もあるが、そういう魂胆で出かけたときほどロクな女性に出会わず、先を急いでいる電車の中で巡り会ったりするものである。私も先日、このままその日の用事をすっぽかして口説きたい衝動にかられたことがあった。米倉涼子に透明感と清楚さを加えたような女性であったが、社会の中で生きていくにはなかなか難しい葛藤があって、結局その子は違う駅で降りていった。いつかまた暇な時にお目にかかりたいものだと思っているのである。
最近のモデル探しのルートとして、ネットで見つけたモデルにメールを出すって手もあるようだが、それはそのモデルを先に撮っている、言ってみれば先輩カメラマンが確実に存在することになる。セルフポートレートを公開している女性は例外ではあるが。セルフポートレートと言えば、最近のユニクロのCMで藤原紀香がレリーズを持って「セルフポートレートは自然な自分が出せるから好き」だって関西弁で言っているが、そんなこと、言われたらカメラマンの立つ瀬がないなーなんて感じてしまった。
いつものように脱線してしまったが、先輩カメラマンがいるモデルとの撮影で、そのカメラマンの影がマイナス思考にちらついてしまうのは非常にまずいと思うわけである。
よく、「男はその女性の最初の男になりたがり、女性はその男の最後の女のなりたがる」と言うが、これはある意味、男女のありかたを上手く表現しているのかもしれない。
撮影に置き換えて考えると、モデルの向こうに先輩カメラマンの幻影を見てしまい、彼より巧みであらねばならないと言うプレッシャーと、でも、勝てないのではないかと言う不安から、頑張ろうとすればするほど、焦れば焦るほど泥沼に落ち込み、ヘンなプライドに邪魔されて結局は自分の撮影が出来なかったなんて馬鹿なことになってしまうのは避けたい。
恋愛もそれに近いもので、前の男との嗜好が身につき、馴染みすぎているのではないかと言う不安があり、前の男と比較されてはたまらない言う思いは持っているものかもしれない。
たとえば「この女性は色々体験しているのではないか」とか、「過去に自分よりもっと優れた男を知っているのではないか」「自分のやり方を見て、拙いと思うのではないか」とかを考えるとそれが強迫観念となってしまう。
しかし、女性は、男性に比べて意外にリアリストであって、今の相手に満足し、充実していれば、それほど過去にはとらわれないようである。
別れた男女が道を反対方向に向かって歩いた時、男は時々振り返るが、女性は次の角をさっさと曲がっていく生き物なのであるから、気にせずありのままの自分で接すればいいのである。
私の経験談であるが、まなちゃんと知り合った時は、他人の撮った写真を見て気に入ったわけではなく、最初に撮影した時に、この子となら自分の撮りたかったモノが見つけられそうだと直感的に思ったわけだ。その後、お互いに二人での撮影を望み合って今に到っているが、何年か前に一度だけ、こんなことをまなちゃんが言った事があった。
「以前、よく撮ってくれた人は、ものすごい数のシャッターを切る人だったのね。だから、Joeさんと撮影した時にシャッターの数が意外に少なくって、気に入らなかったのかな・・・って思ったの」それを聞いて初めて私はその先輩カメラマンにあたる存在を意識したのである。実際に、私がまなちゃんを気に入った部分のどこかはそのカメラマンが育てたものかも知れないし、そのカメラマンとの撮影に馴染んでいた事は消せない事実であったわけだ。しかし、その時は私のパートナーのまなちゃんとして確固たる位置にいたこともあって、自信を失うどころか、ここまでやれるものならやってみろって感覚であった。
後日談として、そのカメラマンが私の事を写真仲間から聞いて、どんな男かと調べ回っているらしいと耳に入ったが、きっと『素顔のままで』を目にすることになったであろうことは容易に察しがつく。その後、ぱったりと静かになったのはどう言うことだろうか。
また、面白い事に、親友のMiwaが友達と飲みに行った時にナンパされたオジサンがいて、その一人に自慢のライカでバシャバシャと写真を撮られたらしい。名刺を渡たされていて、その名前がそのまなちゃんを撮っていた人だったと言うのだから世の中狭いと言うか、見たこともない人ではあるが、ひょっとしたら女性の趣味が近いのかもしれない。まぁ、私はライカオヤジにはなれないが。