花咲く季節
401話となったが、今日はもう少し私のことをイメージしてもらうとしようか。
いつの間にか初夏を感じさせる今日この頃である。マンションの1階であることも関係して窓が開けられないという辛い状況であり、もうクーラーをつけてしまっている私なのである。
こう日中が汗ばむほどになると薄着になるが、困っているのがポケットが減ってしまうことだ。普段はベストを身に着けることが多いが、いかにもカメラマンやフィッシャーマンっぽいのはいささか気が引けるので、ちょっと雰囲気が違ったのを愛用している。アウトドア向けなのでポケットが多くてとても便利なのである。私は財布さえ持つのが嫌いなほどで、ポケットに僅かながらもキャッシュを無造作にねじ込んで手ぶらでいることが多い。
携帯に煙草と、かさばるものがあって、毎年この季節になると困るのだ。
バッグも最近ではもっぱらウエストバッグを腰か斜めがけするぐらいである。その中には、文庫本とオークリーのサングラスが入っている程度である。
サングラスと言えば、正月に車上狙いに遭った時も、虫の知らせか車内にあったオークリーはすべて持ち帰っていたので無事であった。元々眩しがりな私は太陽が目に入ったり、屋内から日差しの強い外に出た時など思わずクシャミが出てしまうので、一年中サングラスが欠かせない。中でも今はオークリーがどんどん増えてしまったが、このフィット感は手放せそうもない。レンズカラーも色々と揃えているので2、3個持って出ることも珍しいことではない。そう言えば、常夏の島に旅行に行く女友達に好きなのを持って行っていいと言ったら、こんないかついのはと遠慮されてしまった経験がある。
しかし、このオークリー、値段は張るが湾曲率が高いレンズも歪がなくて非常に結構なシロモノであるからお奨めである。
巷ではグラサンと言われるようだが、この表現をこれまで一度も使った事がなく、今書いた4文字がグラサン初体験で口にしたことはない。どうも、安易にはやり言葉を使うのが気恥ずかしい性格はどうやら治りそうもないな。
もうひとつ、私は何でも黒か白に決める性格だと言っていいだろう。くよくよ悩んで夜も眠れないなんてことは、これまで一度だってなかった。思い悩んだって、一夜明けて明日になったら自然に気持ちも決まるだろうって考えてしまうのだ。
しかし、写真の世界ではそのはざ間で微妙に変化していくグレーの世界が好きだ。グレーという表現はあまりよくないので、青ではなく白でもない水色とでも言うべきか。赤と白のピンクだって?しかし、私のイメージではないだろう。
また、写真でははっきりとした言葉なんか必要ないと思ってて、物語であれば行間を読む方が好きだから、言葉にならなかった言葉とか、言わなかった言葉の方に惹かれるのである。
てーことで、その写真を見る側も自由に想像力を膨らませてくれればいいわけだ。
でも、想像するも何も、その余地もなく単純で面白くも何ともない写真が世の中多すぎるのではなかろうか。
この季節、花とモデルを合わせて撮るケースを多く見かける。特に初心者が多い撮影会などでは、参加者のリクエストとして花をバックにした撮影のリクエストが必ずと言っていいほどある。
風景写真からの寄り道や浮気心が働いての参加者が多いのかもしれないが、主役はひとつの原則は同じなのだから、花見の記念写真じゃあるまいし、発想が単純すぎるって言うのか欲張りすぎなのだ。私はあまり花バックでは撮ることはない。あるとしてもフォーカス面をはずして気配だけを表現するに止めることがほとんどで、その雰囲気に溶け込ませることの方が重要なのである。言ってみればこんな感じなんかどうだろう。
――女は頬の辺りで私を意識している。清楚な花が「私を摘んでください」とでも言っているようだ――
花が咲く季節ってのは、地上に生を受けたものすべてが、そんな気分になるってことだから、それを自らが感じ、モデルが感じればそれだけで充分すぎることではないだろうか。