楽しみ方を極めろ


なんということだろう、この私としたことがこんな長期に渡ってココを留守にするとは。

あっという間に携帯電話のカメラも常識化したな。しかし、最近ではスペック至上主義の反動か薄っぺらいケイタイも増え、私もそんな機種に変更したばかりである。やはり常備するには小さい方がいいに決まっている。それでもピンホール・カメラ程度のレンズではあるが、カメラが裏表に付いていたりする。
以前、私がGR1sを買った頃に携帯カメラはイイと書いたが、携帯電話もカメラだと言えば、小学生から老人まで、総カメラマンとも言える時代となってしまった。昨今のデジタル化も含めて、写真を撮ることに慣れている人の比率が増えたのは確かだろう。ただ、慣れすぎと言うか、それが転じて“簡単”-->“お手軽”-->“とりあえず一枚”-->“手抜き”へと流れてしまっては困るのである。

こんなご時勢に、フィルムの時代や、さらにはマニュアル機の時代のワンカットに対する思い入れを押し付ける気はさらさら無いが。デジタル画像の記憶装置の容量が急増し、さらに値段が急降下しているのも後押しして、写真、いや写真術が変わってしまったのは仕方の無いことである。
時代の流れとは言うものの、人物を撮ることに絞って考えれば、“手抜き”が撮影作業の負担軽減となり、対モデルへの集中度アップやケアに繋げている人がどれだけいるかだ。
その“手抜き”意識が撮影全体に影響が出てしまうような気がしてならないのは、私だけだろうか。

今年から私はマニュアル車に乗っているが、20年近くヒール・アンド・トウなどほとんどしたことが無かったのに、若い時代に身体に染み付いたものは抜けていないようで、久しぶりに運転の楽しさに浸っているところである。
ちなみにご存知ない人にヒール・アンド・トウの意味を、説明しておこう。それは、シフト・ダウンしながら減速する時に使用するテクニックである。
詳しく解説する前に、運転の最大の愉しみであるコーナーリングをイメージしてもらおうか。
例えば、4速で直進後コーナに進入する場合、当然ながら直前で減速をする必要がある。そして、横Gを感じながらコーナの出口目指してアクセル・オンで駆け抜けるわけだ。そのためには、コナーの入り口付近で減速を終了させるのだが、少しブレーキングを残すことで前輪への加重が抜け切るまでにステアリング操作をすることができ、前輪のグリップが強い状態を活かして方向転換が出来る。その後はシフト・ダウンした3速のパワーにモノをいわせて加速しながらコーナーを抜ければいいのである。と、このようにコーナーをクリアできれば、「超〜気持ちイイ」となるわけだ。で、ここでヒール・アンド・トウの出番なのだが、右脳のトレーニングだと思って、順を追って操作をイメージして欲しい。


かなりの速度でコーナーに接近しているが、ギリギリまでブレーキングを我慢(4速)する。


ブレーキングを開始するが、ブレーキペダルは右足のつま先(トウ)で踏むる。


と、ほぼ同時に左足でクラッチを蹴飛ばすように踏み、シフトレバーをニュートラルに。


クラッチを繋ぎ、右足の踵(ヒール)でアクセル・ペダルをチョンと踏みエンジンの回転数を3速に合わせる。


再びクラッチを踏み、ニュートラルから3速にシフト・ダウンする。


1でつま先で踏んだブレーキは、ここまでもこれ以降も踏み続けて減速のコントロールを行っている。(シフト・ダウンしたことでエンジン・ブレーキが効きストッピング・パワーは増しているはず)


6が完了した時点で、コーナーの入り口にいれば成功!


ここではじめて2でつま先で踏んだブレーキを緩め、コーナーのクリッピング・ポイント向け軽くアクセル・オンで進むが、ちょうど速度に応じた3速のパワー・バンド内にいることになる。
※ここで、減速が不十分でればブレーキングを残してもいいが、決してクラッチを踏んで速度の調整をしてはならない。それは、駆動力を切った状態はクルマが不安定になってしまうからである。だから、プラスかマイナスのどちらかの駆動力を与え続けることが望ましい。   


最後は出口に向けて、理想的なラインを狙ってパワフルに加速しながらコーナーをクリアする。

以上だが、ここにはつま先でブレーキをかけ、踵でアクセルを吹かすヒール・アンド・トウだけではなく、一回の減速につき2回クラッチを踏むダブル・クラッチの操作も含まれていて、これらを少なくとも2秒以内で同時にステアリング操作も含めて正確に行わなければならない。
3〜5がダブル・クラッチで、ミッションのシンクロ(回転を合わせる機能)のサポート的な役割となる。しかし、最近はクルマの品質も上がってきているので、一度のクラッチ操作でシフト・ダウンしても問題はないはずである。ただ、私は勝手に両手両足が動いてしまうのだ。
また、コーナのRがさらに小さくなって、表六甲のヘアピンのようだったりすると、さらに2速まで落とす必要があるので、3〜5を繰り返すことになる。

ながながとヒール・アンド・トウの説明をしたが、理屈だけ覚えても仕方ないし、操作と結果が両立した時の快感は写真と同じだと思うのである。
最近は、BMWのMシリーズなどではレーシングカーからのフィード・バック技術として、セミオートマが導入される以前のF−1のアイルトン・セナ並みの速さと正確さで、これらの操作を自動的に行ってくれるマニュアル車も出している。また、これらはクラッチ・レスなのでオートマ免許で乗れてしまうのだから、技術の進歩は凄いものがある。

新技術と言えるかいささか疑問だが、楽チン機能として、AT車はその最たるものである。しかし、私はそんなAT車であってもDレンジに入れっぱなしと言うことはないし、ブレーキは左足で踏んでいた。それはベンツに乗っていてる頃も同じで、アクセルとブレーキを右足を踏み替えて操作するよりタイムラグがなくなるし、さらにはオーバーラップさせることも多かった。特にターボ車では、完全にアクセルをOFFしてしまうと、タービンが再び立ち上がるまでのロスが出てしまうので、ブレーキングの後半で軽くアクセルを吹かすと、コーナーの出口でブーストがタレることがなくなる。こうやって大型車のAT車でも、ヘボいMT乗りを六甲でカモれるわけだ。

まだまだ、星野ー義氏から教わった“究極の送りハンドル”と呼んでいるステアリング操作や、クルマのロール特性を逆利用したコーナーリングのきっかけ作りなど、さまざまなことを考え、工夫し、練習を積み重ねてきた。それは、他の誰かより早く走れるというようなコンペ的な理由だけではない。
楽にそこそこの結果が出でてればいいし、その方がスマートだと思う人が多いであろう。しかし、ドロ臭いことの積み重ねが、机上の理論を現実的にイメージさせることになり、自らの力のつき具合いを実感できるのである。楽したい派には一生理解できないかもしれないが、絶対にその方が楽しいはずだ。
私が写真を好きになった理由が少しは伝わっただろうか?


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