オンナ心は読めるか


女心と秋の空とは昔からよく言う言葉だが、別にコロコロと気が変るわけではないと思うのである。男とは違う方面に心の毛細血管を張り巡らせており、かつデリケートで傷つきやすいのだろう。それが大出血を起こすこともあって、絶対になにかしら要因があるはずで別に気が変るわけでないのである。
男なら気にしないようなことに敏感であることが多いから、そこを迂闊に突っつくと男としてはどう取り繕えばいいのか分からない困った状況となってしまう。どうして、ご機嫌ナナメになったのか分からないのだから、笑って誤魔化すしかなくてもそれはかえって逆効果となってしまうわけだ。
ポートレートを撮っていると、若い女の子のモデルと行動を共にすることになるが、上機嫌でいてくれることがいい撮影の一番の条件であることには間違いない。

こんなことがあった。風邪を引いたと寝坊し遅刻してきたモデルがやっと来たと思ったら、いきなり不機嫌で逆ギレ気味だったことがあったが、いまだにあれは理解し難い行動だった。過去に何度か会ったり撮影していた仲だったので、熱があると言っていた彼女のおでこに手をあてようとした途端に思いっきり振り払われてしまったのである。自分からコンポジの撮影を頼み込んでおきながら、遅刻した上にこの態度はなんなんだ!と一瞬思ったわけだ。もう、ヤーメタと言ってやろうかと思う気持ちを静めたが、頼んでいたアシスタントの男の子なんか、それまでのハイテンションも吹っ飛び、萎縮してしまっていた。
琴線に触れた覚えも特にないのだが、撮影を始めると徐々にご機嫌が直りだし、いつの間にか自ら撮影のアイデアを出しだしたりするのだから、分からないものである。最後はかなりのハイテンションで撮影が終わり、送って行ったのであるが、帰りの車中で話してくれたことは、生理不順気味である上に生理と撮影が重なってしまったようである。しかし、こればっかりは男は実体験がないだけにどうしようもないわけである。多分、そのモデルだって、恐いカメラマンとの仕事であったなら、遅刻もしなかっただろうし逆ギレするようなことも無かったのではないか。私は甘く見られているのかもしれないが、ポートレートを撮る上では恐がられるよりいいのではないかと思っている。
また、こんなことでいちいちイライラしてたり、こっちのリズムを崩してしまうわけにはいかないわけだが、若い女の子なんてこんなものだと覚悟しておくべきである。キレイ、カワイイと言われてきた子たちなので、多少は我がままに育って当たり前なのである。

喜怒哀楽を表面に出す女性の方が好きな私だが、性格でモデルを選ぶわけにもなかなかいかないのである。すぐに態度に出して怒ってくれればまだ対処のしようがあって、相手の勢いを受けて同じテンションでゴメンなさいだ。しかし、気がつくと俯いて黙り込んでしまってたりする場合はかなり厄介である。プライベートな彼女のような関係であるなら色々と方法はあるだろうが、相手は性格も良く知らない赤の他人なのであるから非常に難しいのである。増してやこれから撮影をしなければならないのであるから、何とか立ち直ってもらわなければいけない。そんな時に一番気をつけなければいけないのは、すぐに手を打つことであろう。自然に機嫌が直るまで放っておこうなんて手を抜いてはイカンのである。
人それぞれ、心の琴線があるだろう。打てば響くような人もいれば、じわーっと効いてくるような人もいるはずである。極力それには触れないようにしていても、思わぬ所に地雷が埋まっていたりするから要注意だ。

だいたい共通して言えることは、素人だったり経験が浅いモデルはこう思うらしいのだ。カメラマンはいつもキレイな人を見ているから、私がどう思われているか気になるし恥ずかしい。自分が気にしている部分(容姿に関して)をいち早く見抜かれているのではないかしら?である。でも、この心配は少なからず当たっているのではないだろうか。ポートレートを得意とするカメラマンはその辺の選球眼に優れているのは間違いないのだから。

しかし、私はそんなことを口にするほど愚かではないし、思っていることを悟られないようにしている。ただ、鈍感な男だと思われるのは避けなければならない。また、その女の子がハンデに感じている部分と違う所が気になっていることも案外多いのである。そういう所は、ある程度打ち解けてきた段階で、ここが悪いとか気に入らないなんて表現を使わずに伝えている。何気ない一言に痛く傷つくのが乙女心というものだから、もう少し姿勢を良くすればこの服は似合うとか、もっとカッコよく着こなせると。そして、それに興味を示してくれるようなら、骨盤を前傾させることや、一緒に歩いて歩き方のレッスンなど、具体的なアドバイスに入っていくが、それはイコール脚のカタチをキレイに見せることにつながる。決して君はO脚だから・・・なんて切り口ではない。とにかく欠点を指摘するような物言いはタブーである。「こうすればもっと良くなる」が大前提であって、結果として欠点が自然に補えているパターンが理想である。また、どんなモデルでもひとつやふたついいところがあるはずだから、そこを褒める言葉を挟みながらとなる。例えば、鎖骨がキレイで色っぽいとかだが、モデルによっては「色っぽい」というキーワードを嫌う場合もあるので、その子のモデルスタイルを理解してあげることも重要となる。女性が誰しも色っぽいと言われて喜ぶと思っていたら大間違いなのだ。
そして、その本人が仕上がりの写真で、自分が気にしていた部分がしっかりとフォローされていたりしたら、「あのカメラマンは好き」ってことになるのである。

『素顔のままで』のまなちゃんとは実に仲がいいわけだが、お互いにギャラが発生しない撮影であるから、仲が悪いと成立しない関係なのである。そんじょそこらのバカップルでは及びもつかないほど、二人だけの時間を一緒に過ごし、語り合い、あちこちに出かけ、同じ鍋を突きあってきたが、たまにはぶつかることもあったわけだ。しかし、相手を大事にする気持ちがあればヒビがはいるようなことはない。
ヌードモデルとしてのまなちゃんが最初の出会いであったが、二人で撮影するようになって、私は一度も裸になることを望んだことは無い。ヌードを残したいとまなちゃん自身が思った時には、私なりに精一杯の撮影をすると約束していただけで、それはペンションを借り切った撮影の中で実現してあげれた。ヌードモデルはよっぽどの露出狂でもない限り、何かと引替えで割り切らないと出来ないもの。その割り切らなければやれないような撮影を私はしたくなかっただけである。


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