DIYは楽しい


クルマのブレーキなんて、誰もが何気なく踏んでいることだろうが、アクセルやクラッチ同様、車種によって踏力やストロークによるクルマの挙動はさまざまである。それだけでなく、ペダルの配置も車種によってかなり差があって、左右のズレが気になるほど違うこともある。

ペダルの中で、一番コントロールが難しいのがブレーキである。昭和50年代ぐらいまでのクルマにはABSなんてものは付いておらず、ブレーキのロックは命取りになったものである。それも高級車ほどパワーアシストが強力で、軽い踏力ですぐにロックしたのを覚えている。当時RX−7から親父のクラウンに乗り換えた時など、ブレーキが効きすぎて乗りにくかったものである。軽い踏力で強力に効かせればいいってもんじゃないと私は思うのである。
万が一のときに思わず強く踏んでしまったばかりに、ロックしてしまいさらに状況を悪くすることになりそうである。しかし、今ではABSが標準なのでブレーキをロックさせて、中央分離帯に直行ってのは減ったように思う。

私は、ぎゅーっとブレーキペダルを踏み込んで効かせるタイプが好きだが、今のVR−4は無駄に踏み込んでいる感覚があった。それはチューニング好きなら気が付くことだろうが、ブレーキペダルを踏み込むと、ペダルの取り付けられている室内とエンジンルームの薄い鉄板の壁が、前方へ歪むことで踏力が逃げてしまうのである。その壁のことをバルクヘッドと言うのだが、誰かにブレーキを思いっきり踏んでもらえば、それがブヨブヨ動くのが目で確認できるはずである。
そのバルクヘッドにブレーキの踏力を増幅してくれるマスターバックという円盤のような装置がくっ付いていて、その前方にブレーキオイルを四輪に送り込むシリンダーがあるわけだ。そのシリンダーの上にはブレーキオイルのタンクがある。一度自分のクルマのボンネットを久しぶりに開けて確認してみて欲しい。ブレーキペダルの前方にあるので、すぐに見つかるはずである。

さて、マスターバックシリンダーごとバルクヘッドが前方に動いてしまう現象を解決するには、つっかえ棒で前から支えてやればいい。この専用のパーツを販売しているメーカーもあるが、我がVR−4用は残念ながらないわけだ。単純なパーツなので、なければ作ればいいが、びっしり詰まったエンジンルームでそう簡単に作って付けるわけにもいかない。
お盆休みにゆっくり挑戦しようと思っていたわけだが、シリンダーの周辺をじっくり見回していたところ、簡単な金具でシリンダーを押さえつけられる仕掛けが作れそうだとイメージできてしまった。

思いついたら即行動である。まずはボール紙をハサミ切り、現物合わせでどう鉄板を加工すればいいかシミュレーションの実施である。っていうか、そんな大げさなことでもなくたった1分で完了。
あとは、適度な強度を持ったL字型の鉄板を物色してきて、電動工具で適当に現物合わせでギャンギャン削ること15分。
さっそく装着してると、あっけないほどピッタリである。いくらピッタリでも効果がなければ意味がないわけで、試乗に出かけたところ、これまた思っていた以上の効果で驚いてしまった。
ブレーキペダルの何ともいえぬダイレクト感と、踏力と比例して効くブレーキの感覚は部品代タダでここまでなるのかって申し訳ないぐらいである。
ブレーキのダイレクト感といえば、ブレーキオイルが流れるホースを純正のゴムホースから、圧力で膨らまないようにステンメッシュで強化されたものに替えるのが一般的であるが、費用も掛かるしオイルのエア抜きなど邪魔くさい作業となるので、今回はブレーキ・マスターバック・シリンダー・ストッパーなる長い名前のパーツを作ってみたが、ステンメッシュより効果がありそうな気がする。

私の悪い癖なのだが、結果を急ぐばかりに適当なやっつけ仕事をしてしまうことである。グラインダーで適当に削ったことで、鉄板は傷だらけで削った所はガタガタである。ジグソーでも使ってキレイに切れば良かったが、どこに仕舞い込んだのか忘れてしまったので、手近にあったグラインダーでやってしまったのがそもそもの間違いであるが、自分のクルマであるから、細かいことを気にする必要はないのである。
まぁ、急いで削ったのには訳があって、かなりの騒音がするので近所迷惑になるのが怖かったってのが大きいわけではあるが。
しかし、効果があったということで気分が良いので、リューターでガタガタ部分の補修を行い、錆び止めを兼ねて赤いスプレーで塗装してみたら、かなり見栄えもマシになったようで、大満足DIYなのである。

但し、物事なんでもゆとりが大切なのである。エンジンを組むときも一番のキモはクリアランスというほど、何でも適度な余裕がなければいけない。
レンズだって、ピントリングやズームリングのタッチが絶妙だと、実に気持ちがいいわけで、これこそ最適なクリアランスで組まれているからに他ならない。
元々、バルクヘッドが歪むことは当たり前のことだし、マスターバックシリンダーも前から押さえつけられることなど想定外で装着されている。それに対して、鉄板で前から押さえつけられてしまったものだから、負担がかかってくるのは当然のことである。だからと言って、鉄板を薄っぺらいものにすれば、ブレーキペダルを踏んだ時の力で簡単にひん曲がってしまって意味がない。逆に強力すぎると、踏力との板ばさみでマスターバックシリンダーが壊れてしまいかねないのである。
モノがモノだけに、故障は絶対に避けたいところで、私が今回一番気を遣ったのがここなのである。シリンダーと接触する面の角度と鉄板全体の強度としなり具合を調整しながらの作品となるわけだ。
おそらく、一般の市販品より見栄えは悪いが、その丁度いい具合の部分は勝っていると思っている。

こんなふうに、写真に関しても写真機材を自作することが多かった私である。中学生の頃からの自転車の改造からはじまって、色々と考えながら弄ることが好きだった私である。
売っていなかったり、市販品が気に入らなければ自分の出来る範囲で作れないか、まず考えることにしている。ほとんどの人はそこで諦めるわけだが、ホームセンターに行けば何かひらめくものである。
私の住んでいる地域には、10軒ほどのホームセンターがあり、そのうち7軒は系列が異なるので、売っているものの種類も微妙に違うのである。通りかかったら寄るようにしていて、目ぼしいものがないかチェックを怠らない。

さらに、工具専門店も定期的に通っており、何かしら買ってしまうのである。以前、クルマごと全ての工具を盗まれてしまった私であるが、2年前に新しく買った工具箱はすぐに満タンになってしまい、最近では蓋が閉めにくくなっているほどの勢いで増え続けている。
ただ、安い工具は要注意である。クルマのエンジンや足回り関係はしっかりとボルトやナットが締まっていたり、固着していることが多く、それを安い工具で緩めようとしたら、ナットをなめてしまって、無駄な時間と労力が必要になり逆に出費が多くなってしまう。この現象は何事にも言えることではないだろうか。


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